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ヒナタノオト工芸帖

日本橋小舟町の工芸ギャラリー・ショップ「ヒナタノオト」の作品ノオト

セイキロスさん

ちょっと、長くって、工芸の話ではないのですが、
たぶん、いい話、です。

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その人に会ったのは、3回、です。

2回目は昨年の「工房からの風」で。
ギャラリートークを終えて、書籍の署名をし、ほっと一息ついた瞬間に、
「こんにちは~」
とやはらかな笑顔でひとりの男性が声をかけてくれました。

旧知のような表情でしたが、とっさに思い当たらず、
あの、、どちら様でしたでしょうか?
と申し訳なくも伺いました。

「以前、デンマークの石碑のことでヒナタノオトに伺った者なんですが、
私家本ができたので、お届に行きましたら、
今日はこちらでイベントがあるとの張り紙があったのでやってきましたー」
と。

えっ、人形町から本八幡へ?
まるで隣の家から来たように軽やかにおっしゃって、
あの人垣の中を迷いもせずに、私を見つけてくれたようなのです。
「工房からの風」が何なのか?
この賑わいの状況もまったく無関係のようで・・


かなり、不思議でしたけれど、あまりに普通にされていましたので、
こちらも普通な気がして?お話しました。
デンマークにある石碑。
私は見たこともないその石碑について、丁寧にご本を作っていらっしゃいました。
そして、それを私にくださるというのです。
なんだか自然な流れでありがたくご本をいただきました。
そして、お名前を教えてください、と言いますと、
「ヒ・ミ・ツ」
とおっしゃったのです。

愉快な気持ちでした。
他の人でしたら、ちょっとブキミ(ごめんなさい)だったかもしれませんけれど、
ヒミツさん、善良のオーラに包まれていましたから。

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040413c


3回目にお会いしたのは、つい先々週です。
私が偶々ヒナタノオトにおりましたら(その週は、その日の、その時間しかいなかったのですが)
ヒミツさんがいらしたのです。
そして、ご本の改訂版をお持ちになって、
「デンマークに行ったら、国立博物館に行って、この石碑を見てきてくださいませんか?」
と石碑の資料をくださるのです。

一瞬、ちょっと困りました。
ヒミツさんの意図がわからなかったからです。
何か、学芸員さんに質問したりするのかな?
ミッション、与えられるのかな?
ちょっと荷が重いな~
正直、そう思いました。
そして、私は何をすればいいのでしょう??
とお尋ねしてみました。

「え~、ハハハ~
そうですねー、そもそもほんとうにこの石碑がここに、あるのかな、なんて。
そして、あったら、どんな風に展示されているのかなぁ。
どんなふうに人々が、この石碑を見ているのかなぁ。
石碑さんが、どんな光を浴びているのかなぁ。
なんてことを、ただなんとなく、ご無理でなければ、見てきてもらえたら・・・」

ヒミツさん、そう言うのです。朗らかに、控えめに。。
なんだかよくわからないけれど、店頭で急にご自分の話をされても、
嫌な気持ちにまったくならないのが、不思議でした。
なんでかな?と思うと、そう、何も私に強制していないんですね。
ただ、その石碑のことが、ほんとうに気になっているのだ、
そう、石碑を愛している!のだ、ということがほんわか、伝わってくるばかりなのです。

と、ところでヒミツさん、なんで私が近々デンマークに行くのご存知なんですか?
(まだ、ブログにも渡デンのことを書く前でしたから)
「なんだか、そんな気がして~ハハハ~」
ヒミツさん、ほんとうに不思議なお人です。

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「工房からの風」の時にいただいたご本。
実はそのあとのモウレツな忙しさの中で、熟読していませんでした。
(すみません・・)

けれど、今回、あらためて読み、そして調べてみることができました。

石碑
というのは、「セイキロスの墓碑銘」というものだったのです。

紀元前2世紀頃から紀元後1世紀頃のもので、完全な形で残っている世界最古の楽曲の一つ。
墓石に歌詞が刻まれており、歌詞の行間には古代ギリシアの音符による旋律の指示がある。
(Wikipediaより)

トルコ(当時はギリシャ)で発掘されたものが、戦火も潜り抜け、
形を残し、縁あって北欧にわたり、今はデンマークの国立博物館にある、
というのです。

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040413cd


わたしは石碑です。
セイキロスさんがわたしを
ここに建ててくれました。
不滅の思い出の
長く生きのこる〈しるし〉として。

生きている限りは輝いていてくださいね。
決して決してあなたは
悲しんではだめですよ。
僅かなんですから
生きている時間は。
終わりを時間は
求めているんですから。

セイキロス・・・
・・・生き・・・


(ヒミツさんの私家本より
最後の部分は石碑が欠損していて読めないそうです)

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私たちは今、さまざまなメディアに思いを残していますね。
たとえば、私がこうしてブログを書くことも。

2000年以上前のセイキロスさんが、石、という当時としては
後世に残る可能性の高いメディアに、こんな詩をつづっていたのです。
音階とともに。
(検索すると、再現した音楽を聴くこともできました)

生きている限りは輝いていてくださいね。
決して決してあなたは
悲しんではだめですよ。
僅かなんですから
生きている時間は。
終わりを時間は
求めているんですから。


セイキロスさんが時空を超えて残してくれた言葉は、
今の自分にしみじみと響きました。
そう、悲しんでいたままでは、いけないのでした。
生きている限り、輝いているのだよと。

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ヒミツさんが、なぜ、私にこのことを知らせてくれたのか。
今も正直よくわかりません。
けれど、そんなことは、どうでもいいんですね。
セイキロスさんの詩を、そして残された石碑を、とっても大切に思う人がいる。
その思いが、その詩を心の栄養とする人に伝わっていく。
それだけで、なんて不思議で、うれしいつながりなんでしょう。

2000年以上の時をわたり、人の思いや心って、変わらないものなんだ、
そう思いました。
そして、同じような思いを抱きながら、人は自分を、他者を、
励ましていくんですね。

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セイキロスさんとわたし
という映画もあるそうです。
ヒミツさんは、どうもこの映画制作の根っこいらっしゃるようですけれど、
まあ、ご本人が「ヒミツ」とおっしゃっていますので、そのままにしておきましょう。

来週9日火曜日。
コペンハーゲンの国立博物館、行ってきます。
セイキロスさんの石碑、会えるでしょうか?

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